福岡県が官民協働で取り組む住宅市場活性化セミナー。第一部に続き、第二部でもLIFULL HOME’S総研所長の島原万丈氏と末次デザイン研究所代表の末次宏成氏を迎え、トークセッションと意見交換を行いました。
Q. 福岡における空き家活用の手法アイデアは?
島原氏:
人口減少下で新築住宅が増え続け、空き家は増加の一途です。その解決の糸口の一つとして、末次さんが実践されている「宿」や「多拠点居住」に着目しています。従来の定住型世帯に加え、旅行者は一時的に「世帯」を輸入し、多拠点居住は「世帯」を水増しします。これらの考え方は、空き家と不足する世帯のマッチングを可能にするでしょう。
背景には、リモートワークや高齢化に伴うライフスタイルの変化があります。50代後半からのセミリタイア層は、東京でも熱海、軽井沢を行き来するような生活スタイルを実現しています。
福岡は、アジアの玄関口という地理的優位性と九州全域へのアクセス性から、多拠点居住に最適な地であり、「エキストラの世帯数」を生み出しやすい地域特性があると思います。
末次氏:
空き家の宿泊施設を利用してくれるゲストの多くは、宿泊客は熊本に留まらず、九州全域を旅行するケースが多い。熊本県のみならず、九州全体、特に福岡県においては空き家活用の宿泊施設のポテンシャルは非常に高いと感じます。
宿泊施設の管理人に若者が増えているのですが、「将来の独立」や「実家の活用」を動機とするケースが多いです。実家や祖父母が所有する空き家問題を身近に感じている彼らは、管理人アルバイトを実践の場とし、更なる意欲を高めています。
私自身が彼らの実家を訪問し、宿泊施設転用の相談に乗る中で、「もう一軒、二軒増やしたい」とさらにモチベーションが高まることもあります。空き家活用は、若者への実践機会提供という意義も持ち合わせています。
Q. 末次さんの発言の中で、「家が商売道具になる」という言葉がありました。まさにそういう感じでしょうか?
島原氏:
空き家問題解決は、家を「住む場所」「寝泊まりする場所」と定義してしまうと、根本的な解決は難しい。そこで、家を「稼ぐ場所」と捉え直す発想は有効だと思います。
最近の注目は、「店舗付き住宅」です。具体的には、1階を店舗や小商いの場、アトリエとして活用し、2階を住居とするスタイルです。神奈川県横須賀市の「生業付き住宅」では、リノベーション前の見学会に多数の申し込みがあり話題を呼びました。住まい方の転換が解決の糸口となった事例です。
しかし、賃貸住宅で「住まい」兼「仕事場」で賃貸できることは稀です。副業が増加している現在、こうしたニーズは潜在的に高いと考えられます。背景にはネット販売基盤の整備があります。小規模店舗とネット販売を組み合わせれば、安価な物件でも十分に収益が見込めます。物件価格や家賃の低さは、ビジネスチャンスを広げる重要な鍵になるはずです。
–会場からの質問
Q. 自分が住む地域は、まだインバウンド需要が少ない状況ですが、そうした地域でどのように地域資源を活用していけばよいのでしょうか?
末次氏:
宿泊施設に関して言えば、「ポツンと一軒家」のような場所が、外国人旅行者に人気です。周豊かな自然景観や美味しい食べ物、そして静けさが、外国人にとっては大きな魅力なのです。彼らは「誰も行かない場所」を求め、レンタカーとGPSで田舎へも足を運びます。Airbnb(エアビーアンドビー)のような民泊プラットフォームを活用することで、これまで注目されなかった地域の宿が新たな収益源として脚光を浴びています。
私の経験でも、「ずば抜けた田舎」で成功している事例は数多く目にしてきました。「何もないから」と悲観する必要はありません。むしろ、普通の家と自然が調和を活かせば、外国人向けの魅力的な宿になるでしょう
島原氏:
私もヨーロッパの田舎が好きで、よくレンタカーを借りて旅行をしています。観光地より、「ここはどこ?」という場所で素晴らしい宿を見つけた時の喜びは格別。現地のレストランで食事をするのも醍醐味です。田舎の集落にも三ツ星や二ツ星のレストランがあるのもヨーロッパの奥深さです。
福岡都市部に「飽きた」と感じているリピーターは、九州の秘境へ足を延ばすでしょう。秘境には、その土地ならではの食や景色があり、観光客や移住者も惹きつけます。山奥のパン屋に行列ができるように、コンテンツ次第で地域活性化は可能です。場所の魅力に加え、何を提供できるかが重要だと感じます。
Q. お金を持っていない若者が集まれる場所が街中には、なかなかありません。
ビジネスに直接は結びつきませんが、社会的な意義はあるのでは?
末次氏:
私たちが運営している民泊「オビハウス」は、まさに学生たちの「第三の居場所」です。民泊は年間180日の営業のため、空き期間は自習室や学生たちが集う場として提供しています。こうした場所の存在が、学生たちに新たな展開やアイデアを生みだしているようです。
島原氏:
空き家を教材とする活用は面白いですね。完成品の運用でなく、「何をするか」から始める学びの場として空き家を活用することも興味深いと思います。大学生や高校生を対象に、専門家指導のもとDIYの指導を行いながら、実際に手を動かす体験型の授業も可能です。
さらに、取り組みを教材化し、ビジネス運用まで進めてみるのも面白いでしょう。空き家問題を解決には、地域の特性を理解することや建物に関する知識、商売のノウハウが必要です。それに加え、デザインやブランディング、コミュニケーションといった幅広いスキルも求められます。経営的な視点を自然に学べる非常に有益な教材にもなるはず。
空き家再生を教材に、学びと実践の場を創出できるのではないでしょうか。
Q.市営団地のような場と違い、集落の中では外部から人を呼び込むことに抵抗を感じて、地域全体の動きが鈍くなることも考えられます。
このような場合に有効な対策は?
島原氏:
少し厳しい意見になりますが、空き家が点在する集落で、地域が外部の人や新たな取り組みを受け入れる姿勢がないと、再生は難しいでしょう。「宿泊施設は嫌」「観光客も不要」「よそ者は困る」なら、無理に再生を試みるよりも、解体してしまう方が現実的な選択肢かもしれません。
集落全体で「地域をどうしていくべきか」を真剣に考えることが重要です。住民の合意や協力が得られなければ、外部の人間がいろいろと提案しても、問題解決にはつながりません。不動産価格が低い地域では、不動産業者が収益を見込んで動くことも難しいのが現実です。都市部と異なり、地方集落は住民の主体的な行動が不可欠です。
末次氏:
まずは小さくても、空き家で何か商売を始めることが大切です。とにかく行動に移すことが成功に繋がります。行動を起こしてみると、「こういうものがありますよ」「手伝いましょう」といった協力の声が出てくることがあります。地域の変化や連携を引き出すには、まず自分からアクションを起こすことが重要です。
失敗しても途中でやめれば良いのです。失敗を恐れず挑戦し、地域や自分への影響を試す価値はあります。自分の「生業」や「やりたいこと」から始めてみませんか。
Q.住宅価値観のファスト化という話が興味深かったです。
賃貸と購入とでは、意識はどう変わるのでしょうか?
島原氏:
賃貸から購入への意識変化は、いくつかの理由がありますが、ファミリー向け物件不足と資産形成意識の高まりも大きな要因です。賃貸物件の多くは単身向けが多く、家族増加に適した住宅が見つからない課題があります。一方、購入はローン返済を通じて資産形成が可能です。
リテラシーの高い層は、戦略的に資産形成を行います。例えば、夫婦二人の間に小型マンションを購入し、子供が生まれたら賃貸に出し、家賃収入でローン返済しつつ、新たな家を購入するようなケースです。東京では、こうしたマンションが資産価値を持ち、大きな財産となっていることもあります。
Q.一人で宿を管理する場合、空き家の距離はどの程度の範囲まで対応可能でしょうか?
末次氏:
空き家管理業や住宅宿泊事業の管理業務では、規則により20分以内の現地駆け付けが定められています。そのため、管理可能範囲は20分以内で移動できるエリアが基準となるでしょう。
Q.二拠点居住は精神的にも経済的にも余裕がなければ、難しいでしょうか?
島原氏:
二拠点居住は人口減少の全体解決には繋がりにくいですが、地域やプロジェクト単位では変化をもたらすでしょう。マクロで見ると影響は小規模でも、ミクロなエリア戦略で考えると効果を実感できるでしょう。
二拠点居住は万人向けではないものの、リモートワーク普及で以前より取り組みやすくなりました。60歳くらいで仕事のペースを少し落として、ゆっくりと暮らしたいという方にはスローライフも現実味を帯びてくるでしょう。不動産価格の二極化が進む中、移動手段があれば地方移住も選択肢となります。
さらに、地域コミュニティに所属したり、副業で地域と繋がっている人には移住しやすい環境が整いつつあります。これらの条件が揃えば、二拠点居住や地方での新生活は実現可能です。
末次氏:
島原さんの言うとおり、選択肢が増え、二拠点居住は格段に実現しやすくなりました。社会全体が「そういうライフスタイルも良い」と後押しする雰囲気も、ハードルを下げる要因の一つでしょう。
島原氏:
地域の魅力なくして再生はありえません。魅力のない場所には二拠点居住者は来ないでしょう。住宅ストック活用は、地域の魅力の上に成り立つものです。魅力のない場所でのリノベーションは無意味であり、魅力がある場所でのリノベーションは相乗効果を生み出します。不動産活用においては、地域の魅力が大前提となります。
末次氏:
地域の魅力に加え、私は「ふるさと」も軸にしたいと考えています。私はこれから、母の故郷で二拠点居住を始める予定です。不動産価値が下がり、魅力も薄れつつあるふるさとに貢献することで、街の再生に繋がればと思います。
ふるさとの原風景への思いは個人的な感情と思われがちですが、地域の潜在力を引き出す原動力になり得ると感じます。ふるさとの可能性を見直し、そこから新たな動きを生み出すのも、二拠点居住の重要な軸になるかもしれません。
今日のトークセッションを振り返えり
末次氏:
島原さんのプレゼンにあった、家の「ファスト化」には大きな衝撃を受けました。共感すると同時に、とても残念な気持ちになりました。家への愛着が薄れ、消費される存在になった現状を感じます。一方で、地方では逆の動きも見られます。空き家をカスタマイズし、自己表現の場に変え、収益化する動きが出てきています。「ファスト化」の影響を受ける面もあるでしょうが、空き家は「宝の山」になる可能性を秘めています。地方の空き家活用に、新たな可能性を感じた一日でした。
島原氏:
日本人は戸建住宅を好む傾向にありますが、中古市場ではマンション流通が優勢です。これは戸建住宅の売却の難しさを示唆しています。背景には不動産業者や工事業者のリスク懸念があります。
3年以内に住宅購入を検討している人へのアンケートでは、新築マンションや注文住宅と並び、「リノベーション済み住宅」の希望が多くありました。特に中古マンションのリノベーションは人気です。一方で、リノベーション済みの戸建は希望が多いにもかかわらず市場では稀であり、住宅市場に大きなギャップが存在します。
福岡でもマンション価格高騰と中古マンションの値上がりで、買取再販業者が増え供給が限られる可能性があります。その結果、戸建住宅に注目が集まるでしょう。特に中古戸建のリノベーション市場は未開拓であり、この分野に強みを持つ企業が市場をリードすると考えられます。10年後にはこの予想が現実になる可能性は高いでしょう。