お知らせ 2026.04.02

第38回美しいまちづくり建築賞受賞者インタビュー/住宅の部

住宅の部 大賞「井堀の家(産後ケアハウスsheep)」

38回福岡県美しいまちづくり建築賞において、住宅の部で大賞を受賞した「井堀の家(産後ケアハウスsheep)」。設計を担当した森 敬幸 一級建築士事務所の森 敬幸さんに話を聞きました。

中庭の抜けが効いた、産後ケア施設を併設する住宅

一級建築士事務所の森 敬幸さん

建築主と話し悩みながら作った建築での受賞に感激

―福岡県美しいまちづくり建築賞に応募されたきっかけを聞かせてください。

賞のことはもちろん知っていたのですが、私はもともと賞に応募するようなタイプではなく、今回も出すつもりはありませんでした。でも、実は建築主さんがInstagramで賞の募集広告を見て、「うちは出さないんですか」とおっしゃったので応募したんです。
結果として大賞をいただき、正直とても驚きました。というのも、僕が手掛ける建築は建築の専門家から見ると少し物足りないものだと自覚しているからです。今までにない建築の新しさや空間といったものはこの住宅にはありません。一時期そういうものづくりを目指した時期もありましたが、僕には合いませんでした。お客さんと話して一緒に悩みながら作り上げていく、そのやり取りが僕は大好きなんです。

 ―王道でなくても、森さんのスタイルで作った建築が評価されたのですね。

これでいいのかなと思いながら仕事を続けてきたので、受賞したことで「それでもいいんだよ」と認めてもらえた気がして、素直にとてもうれしいです。

左から2番目より設計者の森さん、施工者である株式会社くまがえ工務店の熊谷大毅さん、浦田庭園設計事務所株式会社の浦田知裕さん

住宅と産後ケア施設の距離感に中庭を活用

―井堀の家を手掛けた経緯を教えてください。

ホームページからご連絡いただきました。一度お会いしてお話すると、とてもいい感触でしたが、「他の事務所も回ってみたらどうですか」とおすすめしたところいくつか回られて、結局ご依頼いただきました。土地探しから始めて、土地が見つかるまで1年ちょっとで、それから引き渡しまで2年半。いろいろ話して模型を作り、それをもとに何度も修正してと設計にじっくり時間をかけて、納得のいくものができました。

―設計趣旨や特にこだわったところを教えてください。

井堀の家は、産後ケア施設を併設した住宅です。助産師である奥様が、出産後のお母さんのニーズに応じて、育児相談や食事などを提供する産後ケア施設を運営されるということでした。平日は母子の宿泊にも対応するため、住宅と施設の距離感の設定がポイントでした。近すぎるとプライバシーが気になり、離れると手厚いサポートをしづらい。そこで、中庭を挟んで住宅と施設をゆるやかに分け、それぞれの心地よい距離感を確保できるようにしています。施設が休みの週末はご家族が中庭でゆっくり過ごせるようにしました。



表情豊かな小国杉外壁の経年変化も楽しみ

―一般の人が見られる範囲で、建物の見どころはどこでしょうか。

住宅と施設のプライバシーを守るために、道路側には窓を設けていません。外壁が圧迫感を与えないように中庭による抜けを確保し、木々によって柔らかい雰囲気を醸すようにしました。また、大きな壁が単一でのっぺりしないように、小国杉によるボード&バテン張り(板と角材を組み合わせて張ること)で陰影を作り、豊かな表情を演出しています。小国杉が経年変化して、地域になじんでいくことも期待しています。

―建築主の反応を教えてください。

お引き渡しのとき、「すごくいい!」と喜んでいただきました。産後ケア施設はオープン直後からなかなか予約がとれない状況になっているそうです。地域に必要とされている施設だったのだなと改めて実感しています。




素晴らしい建築士が多い九州で真摯な仕事をしたい

―今後やっていきたいことを聞かせてください。

これまで通り、地道に真摯にお客さんと向き合って設計をしていきたいです。特に住宅の案件は、住む人に個性があり、価値観や思いを聞きながら一緒に作り上げていけることが面白いと感じています。驚くようなとんでもないことを要求されて、僕なりにそれをクリアすることも刺激になり、喜びでもあります。

―福岡の建築について思われることがあったら教えてください。

東京で働いて、20年ほど前に福岡に戻ってきたとき、九州には素晴らしい建築士さんが多いことに驚きました。一部の専門誌に載るような有名な人でなくても顧客に寄り添ったとても丁寧な仕事ぶりをされている人が多い。当時の僕は若くて少しいきがっていた部分もありましたが、これではダメだと思いました。たくさんの設計仲間たちから本当に色々と学ばせてもらいました。

―最後に、一般の方にメッセージをお願いします。

建築士の資格には一級と二級があり、一級の方がすごいと思われがちですが、そんなことは決してありません。資格の有無にかかわらず素晴らしい仕事をされる方はいらっしゃいます。多様な建築士がみんなプライドを持ってやっているので、仕事を依頼されるときは、できるだけ多くの建築士に会って、相性を確かめることに時間をかけることをおすすめします。

 

森 敬幸一級建築士事務所 森 敬幸