第38回美しいまちづくり建築賞受賞者インタビュー/一般建築の部

風のオフィス Ⓒ大森今日子
一般建築の部 大賞「風のオフィス」
第38回福岡県美しいまちづくり建築賞において、一般建築の部で大賞を受賞した「風のオフィス」。設計を担当した株式会社古森弘一建築設計事務所の古森弘一さんと橋迫弘平さん、穴井健一さん、有限会社GREEN ROOM DESIGNの桑原大樹さんに話を聞きました。窓から風を取り込める居心地のいいオフィスを実現

左から橋迫さん、古森さん、桑原さん、穴井さん
多彩な審査員により、建築主・設計者・施工者が表彰される賞
―福岡県美しいまちづくり建築賞に応募されたきっかけを教えてください。
穴井:賞に応募することで、審査員の方々から建築に対してさまざまなご意見や批評をいただけることが大きな理由です。次の建築へのモチベーションや活力につながります。
―大賞を受賞された感想を聞かせてください。
古森:この賞の魅力は、審査員が建築の専門家だけでなく、一般の方が多い点にあります。建築は社会の共有財産であると考えると、設計者や関係者以外の方からの意見がとても大切な要素だと考えているので、賞をいただき光栄です。
橋迫:一般的な賞は設計者だけが受賞対象になりますが、この賞は建築主、設計者、施工者の3者が表彰されることがいいですね。今回のプロジェクトは建築主がチャレンジに賛同してくれて、施工者がものすごく頑張ってくださったおかげで完成したので、一緒に表彰していただいてとてもうれしいです。

左から2番目より建築主の株式会社FCホールディングス福島宏治さん、設計者の古森さんと橋迫さんと穴井さんと桑原さん、施工者である株式会社東建設の東泰次さん
桑原:クライアントであるエコプラン研究所の皆さんと丁寧に議論を重ねながら、一緒に作り上げてきました。研究所の皆さんのモチベーションが非常に高く、まさにクライアントに恵まれたおかげで大賞を受賞することができたと実感しています。
環境を考える会社なので環境保全につながるオフィスに

Ⓒ大森今日子
―風のオフィスの設計趣旨と、特にこだわったところを教えてください。
穴井:風のオフィスは、社会インフラの建設コンサルティング会社FCホールディングスに属するエコプラン研究所の社屋です。もともと別の場所にあった社屋を建て替えたいとご相談いただき、住宅街に建てることになりました。同研究所は、開発事業に伴う環境コンサルティングや自然環境調査などの業務を行っています。環境のことを考える会社なので、建築自体も環境破壊ではなく、環境保全や創造につながるような建築のあり方を目指そうとスタートしました。
桑原:特殊な形状の敷地に建物を配置するために、六角形の通り芯を組み合わせた建築にすることにしました。いざ進めてみると、柱の仕口や2階の床のおさまりなどが難しく、原寸大の模型を作って実験を繰り返しました。設計も施工も大変手間がかかりましたが、皆さんのご協力により建物が完成しました。

Ⓒ大森今日子
窓から入ってくる風速を軽減できる建具を開発
―「風量調整建具」というものを作られたそうですね。
古森:風量調整建具というのは、窓から入ってくる風量を調整できる建具です。風のオフィスは、自然豊かな落ち着いた住宅街の中にあります。住宅は窓から自然の風を取り込めるのに、一般的なオフィスには窓があっても開けられません。今回、住宅街にオフィスを建てるなら、住宅のように窓を開けられる居心地の良いオフィスができるのではないかと提案して、チャレンジしました。
穴井:オフィスで窓を開けると、風で書類が飛んでしまうことが大きな問題です。そこで、室内に入ってくる風速を軽減できる装置があれば窓を開けられるという発想のもと、オフィス周辺の風をシミュレーションし、風洞実験を繰り返しました。大学の研究者やエンジニアの協力を得て、さまざまな開口パターンを検証した結果、開口率60%という特殊な建具の開発に至りました。この建具とガラスが入った建具の開口幅の調整で、幅広い気象条件下でも窓を開けて自然風を取り込めるようになりました。窓を開けることで、エアコンの使用を控えられるのもメリットです。

Ⓒ大森今日子
環境に良い取り組みを実践し、高校生との交流もスタート
―外からでも分かる建物の見どころを教えてください。
穴井:住宅街に建つオフィスなので、まわりの住宅でも実践できる環境に良い取り組みをたくさん取り入れました。例えば、道路面に地域の洪水を抑制するための雨庭を設けたり、南側の窓面にはホップのグリーンカーテンを作ったり、雨水タンクを備えたりしています。できれば周囲の皆さんに真似をしていただいて、このような取り組みが広がることで、地域全体が良くなるようにと願っています。
桑原:オフィスの設計にあたり、研究所の業務を理解したくて、一緒に自然公園に行って調査を体験させてもらいました。その中で、シルビアシジミという絶滅危惧種の蝶を呼び込む研究をされていることを知りました。そこで、オフィスの植栽にシルビアシジミが好むミヤコグサを植えてみたところ、実際に来て繁殖したそうです。
―建築主やまわりの方からはどんな声が聞かれますか。
穴井:研究所の方々には、とても快適に過ごせていると喜ばれています。オフィスは窓側にデスクを設け、真ん中にディスカッションできるスペースを作ったことで、居心地が良く、かつ働きやすくなったと言われました。また、近隣にある高校の生物部の先生や生徒がたくさん見学に来てくれて、交流が始まったとのことで、これからの展開が楽しみです。
古森:いろいろな方が見学に訪れているそうです。オフィスらしくない外観なので、カフェと思われたりして驚かれるとおっしゃっていました。

Ⓒ大森今日子

自然になじみ、あって良かったと思われる建築を追求したい
―今後やっていきたいことを教えてください。
古森:建築というのは、自然の中に人為的にものを作る行為です。今回、六角形をモチーフにした理由の一つは、六角形はハチの巣や柱状節理、雪の結晶など、自然界にたくさん存在するからです。六角形を頼りに建築を作れば、自然と人工物の新しい接点ができるのではないか考えました。
山道を歩いていたら、急なところに足がかりになる板があって、すごく助かることがありますよね。そんな足がかりのような、自然の中にそれがあっても嫌な感じがなく、むしろあって良かったと思われるような建築を生み出すことができればいいなと思っています。これからも自然の中に建つ人工物について深く考えつつ、まちの雰囲気がより良くなる建築を目指したいと思っています。
オフィスに関しては、近代のオフィスは外部環境と遮断して、室内に効率的な空間を生み出すことに主眼が置かれていました。しかし、私たちは将来を見据えて、地球環境や人間の快適性に着目し、自然通風や自然採光、木質化されたオフィスを作っていきたいです。
―最後に、福岡県の建築について感じていることがあれば聞かせてください。
橋迫:福岡にはチャレンジングなことをする事務所が少ないような気がしています。私たちの事務所は毎回、それまでにやったことを進化させたり、新しいものを生み出したりすることを意識しています。今回、木造で六角形をモチーフにするのは非常に大変でしたが、皆さんの理解と協力によって完成し、こうやって評価していただき、とてもありがたく思っています。
今後も私たちはチャレンジングなことをやっていきたいし、福岡県にそういう建築がどんどんできて、福岡の人たちがまちに誇りを持てるような建築が増えていけばいいなと思っています。

株式会社古森弘一建築設計事務所 有限会社GREEN ROOM DESIGN