お知らせ 2026.03.31

第38回美しいまちづくり建築賞受賞者インタビュー/理事長賞

撮影 伊藤 建太朗

福岡県建築住宅センター理事長賞「Seseragiプロジェクト」

38回福岡県美しいまちづくり建築賞において、福岡県建築住宅センター理事長賞を受賞した「Seseragiプロジェクト」。設計を担当した株式会社アキ・アーキテクツ一級建築士事務所のグリアー・ハナ・ハヤカワさんとヘクター・バランテ・モンテスさんに話を聞きました。

まちの活性化と共に、新しい建築家のあり方を探る

アキ・アーキテクツのグリアー・ハナ・ハヤカワさん(右)とヘクター・バランテ・モンテスさん(左)  

東京から愛着のある秋月に移住してプロジェクトに着手

―秋月のまちづくりに関するプロジェクトで受賞されました。まずは秋月との関わりについて教えてください。

バランテ:私たちふたりはアーキテクトで、2021年に東京から秋月に移住してきました。それから秋月でいろいろな活動をしてきた中で、長く取り組んできたこのプロジェクトがようやく完成し、受賞することができました。秋月は観光で有名なまちですが、まちづくりの観点からも面白いことが行われていると知られるきっかけになり、うれしく思っています。

グリアー:私がもともと福岡市出身で、秋月は週末に家族でよく遊びに来ていた思い入れのある場所です。大学の修士論文では、秋月を考察し、いつか自分の設計事務所を持つことになったら、秋月に携われるといいなと思っていたんです。

今回の建築主は私の父です。父から「大好きな秋月に恩返しをしたいから、一緒にプロジェクトをしよう」と声をかけられました。東京での仕事に強い愛着があり迷いましたが、思い切って福岡に戻り、独立しました。

左から2番目より建築主のKEZZA株式会社Kerry Greerさん、設計者のハナさんとヘクターさん、施工者である株式会社田尻建設の田尻雄輝さん

変わりゆく景観に危機感を抱き、建物でまちを活性化

―プロジェクトに取り組むことにした背景を聞かせてください。

バランテ:三方を山に囲まれた秋月は、中世に秋月氏が山城を構え、近世には黒田氏の城下町として栄えました。江戸時代の町割りや水路網、武家屋敷、町家、石垣などが残るまちなみは「筑前の小京都」と称され、伝統的建造物群保存地区に指定されています。しかし、近年は人口減少、建物維持の難しさ、空き家や駐車場の増加などにより、まちの景観が変わってきてしまっています。そんな課題に対して、私たちなりに考え抜いたプロジェクトで建物を改修することによって、まちじゅうで起こり始めた変化への危機感と共に、まちを元気にしようという意思を表明することにしました。

建物を再生して、まわりの空間や自然、人とつなげる

―「Seseragiプロジェクト」という名前にはどんな思いが込められているのですか。

バランテ:秋月は歴史あるまちなみと豊かな自然が調和する美しいまちです。まちの真ん中には野鳥川が流れ、Seseragi=せせらぎの音が心地よく響きます。このプロジェクトは、秋月全域に流れるせせらぎへのオマージュであり、私たちのプロジェクトがせせらぎのように騒がしすぎず、常にそこにあり、周囲の環境に生を与え続けたいという願いを込めました。

撮影 伊藤 建太朗

―プロジェクトの内容を教えてください。

グリアー:秋月街道から野鳥川を結ぶ細長い敷地にある3つの建物と、さらに川の向こうにある1つの建物を改修しました。街道側からお好み焼き屋だった築90年の町屋、伝統的建造物の蔵、江戸時代に建てられた茅葺屋根の民家、そして増築を繰り返した川岸の古民家。それぞれの建物に合わせて1つずつ改修し、ギャラリーや料理のワークショップなどのイベントスペース、ゲストハウス、シェアオフィスなど、柔軟に多彩な使い方ができるようにしました。住民の交流や外部の人を迎え入れる場になっています。
また、単独の建物だけでなく、ゲストハウスに泊まった作家が別の建物で展示イベントをしたり、周囲の庭や川まで使って自然を取り込んだりと、緩やかに人や自然がつながる空間となるように設計しました。

撮影 伊藤 建太朗

撮影 伊藤 建太朗

行政や住民と協力して、せせらぎをまちに広げたい

―今はどのように使われていますか。

グリアー:最後の建物は20244月に完成しました。私たちの設計事務所がシェアオフィスの一角を使っています。他の建物は、いろいろなイベントスペースや私たちが毎年主催している映画祭の映画館、アーティストの作業場など、多様に活用されています。ゲストハウスには、国内外の方が泊まりに来られます。もともと秋月には高級旅館しかなかったのですが、気軽に泊まれる場所ができたことで、阿蘇や別府など各地に行く途中で寄ってくれる人も増えました。泊まった人が秋月をとても気に入り、これまでに3組が移住して来てくれました。

撮影 伊藤 建太朗

撮影 伊藤 建太朗

―プロジェクトの手応えや、まわりの方々の声を教えてください。

グリアー:Seseragiプロジェクトは秋月の未来につなげる私たちの活動の第一歩で、このせせらぎをまち全体に広げていきたいと思っています。現在は、私たち自身がまちの中で新築や改修に取り組んでいて、活動に賛同してくれる人が増え、行政との連携も生まれています。
2024年に市に主催いただいた「400年後の秋月を考えるワークショップ」を企画、運営したところ、多くの方々が参加してくれました。住民の皆さんがまちの現状に危機感を持ち、私たちの活動に「一緒に頑張ろう」「何かあったら手伝うよ」と声をかけてくださって、うれしく思っています。今は地域の人たちと一緒に空き家のデータベースを作り、移住検討者と繋げるプラットフォームを作っているところです。何よりも住民の皆さんがまちを愛し、まちに詳しく、頭の切れる人が多いので心強いです。

撮影 伊藤 建太朗

これからの新しい建築家像を探究していく

―今後やっていきたいことを聞かせてください。

バランテ:個人的には、公営住宅や団地にチャレンジしてみたいと思っています。私の故郷であるスペインは、公営住宅がとても面白くて素晴らしいんです。日本の公営住宅のベースはすごく良いのですが、もっともっと良くできると思っています。東京では博物館や美術館をメインに設計していたので、そこで経験したパブリックスペースの作り方やスペインでの知識を生かして、公営住宅づくりに関わることができるといいですね。

グリアー:福岡のまちは、東京のマネをしている部分が多いという印象を持っています。福岡は福岡らしく、まちのアイデンティティをもっと出せる建築のつくり方があるのではないでしょうか。今は秋月を拠点に九州各地の仕事をしていますが、福岡県の建築やまちづくりにも携わっていきたいです。

私たちの世代では、従来の建築家像が変わってきていると感じています。新築の時代ではなくなり、建築家は建物を建てたり改修したりするだけでなく、社会と関係性を持つことが大切になってきている気がします。そういう面で、私たちの秋月のプロジェクトは地域活性化の事例というより、新しい建築家像の実験、これからの建築家のあり方の研究と捉えています。やりがいを感じながら、これからも地に足をつけて活動を進めていきます。

株式会社アキ・アーキテクツ一級建築士事務所