第38回美しいまちづくり建築賞受賞者インタビュー /理事長賞

Ⓒ大森今日子
福岡県建築住宅センター理事長賞「ミリカローデン那珂川」
第38回福岡県美しいまちづくり建築賞において、福岡県建築住宅センター理事長賞を受賞した「ミリカローデン那珂川」。設計を担当した株式会社古森弘一建築設計事務所の古森弘一さんと橋迫弘平さんと穴井健一さんに話を聞きました。
全体を図書館に見立てて、市民みんなの居場所をつくる

左から橋迫さん、古森さん、穴井さん
行政や多くの施工者と共に格の高い賞を受賞できた
―福岡県美しいまちづくり建築賞に応募した理由と受賞した感想を教えてください。
穴井:こちらは設計から6年かかったプロジェクトで、全4期に分かれて期ごとに施工者さんが変わり、計23社にのぼりました。行政の皆さんと多くの施工者にご協力いただいたおかげで完成したプロジェクトなので、全員で受賞できればと思い応募しました。皆さんと受賞の喜びを分かち合うことができて、改めて皆さんに感謝申し上げたいです。

前列左から2番目より建築主の那珂川市 小原副市長、設計者の古森さん、橋迫さん、施工者の匠建設 荒川さん、設計者の穴井さん。後列左から施工者の銘和建設 佐野さん、幸州 三山さん、溝江建設 吉橋専務、クサカベ 日下部さん
古森:福岡県美しいまちづくり建築賞は、実は建築界において評価がとても高い賞なのです。行政が出した条件をクリアした上で、きちんとした審査員の方々による現地審査があります。38回もの歴史があり、知事の名前で賞を出すのも珍しい。受賞すれば、学術的にも一般の人にもPRできます。ですから、私たちもぜひ取りたい賞で、今回受賞できて光栄です。
公共施設を、失われつつあるまちの居場所にする挑戦
―プロジェクトを手掛けることになった経緯を教えてください。
穴井:ミリカローデン那珂川は、1994年に那珂川市で開館した複合文化施設です。音楽ホールと図書館、生涯学習センター、記念館、エントランスホールで構成されています。2019年に改修のための設計プロポーザルが行われて、弊社の案が最優秀賞に選ばれました。
―設計趣旨を聞かせてください。
橋迫:プロポーザルにあたり、私たちが最初にミリカローデン那珂川に行ったとき、1つの建物なのにそれぞれの施設がバラバラなように感じました。加えて、エントランスが閑散としていて、「ここに人が来たらいいね」「全体をつなげるにはどうしたらいいか」という議論からスタートしました。そして、施設全体を図書館に見立て、本で全てをつなぐプランを立てました。
エントランスホールに図書館のマガジンコーナーを出し、カフェのコーヒーを飲みながら読めるようにしました。図書館には本の持ち出しを感知するセンサーがあるため、本を外に置けるようにするだけでもさまざまな変更と工夫が必要です。また、行政は縦割りでエリアごとに管轄が異なり、全体をつなぐことの合意形成を取ることも大変でした。それでも、この前例のないチャレンジに那珂川市の職員の皆さんが賛同し協力してくださったことで実現にこぎつけることができました。

Ⓒ大森今日子
古森:近年、まちなかには有料や特定のコミュニティに属した人が利用できる場所は増えていますが、目的もなくふらっと立ち寄れる場所や自由に利用できる場所が減ってきています。管理責任が問われ、自由に使える場所は立ち入り禁止になり、子どもの遊び場すら消失してきています。
ミリカローデン那珂川の改修プロジェクトは、公共の図書館が失われつつあるまちの居場所になれるのではないかという発想からのチャレンジでした。図書館は必ずしも本を読むための場所ではない。従来の枠を抜け出し、あらゆる市民にとって居心地のいい場所になることを目指しました。

Ⓒ大森今日子
穴井:具体的には、施設全体にたくさんの居場所を作ろうと、世代の異なる設計チームのメンバー総出で100を超える居場所をスケッチしました。みんなで考えみんなで作る設計手法で、幅広いニーズに応えようとした結果、バリエーション豊かな居場所を形にすることができました。

Ⓒ大森今日子
―どんな居場所があるのでしょうか。
古森:例えば、居場所の一つである「ミリカの木」は、那珂川市にいい木があるとまちの方から伺ったので実際に山へ見に行き木を切らせてもらい、木のことを教えてもらうところから始めました。大学や製材所、構造エンジニア、大工と一緒に検討と実験を重ね、低温で時間をかけて乾燥させることで木の色と香りを保つことにこだわりました。樹齢80年経った木を丁寧に積み上げ、特徴的なシンボルができたので、実際に触れて那珂川市の豊かな自然と時間の積み重ねを感じてもらいたいです。
エントランスホールにある「ミリカフェ」にも那珂川市の木をふんだんに使っています。地元の方が運営するカフェなので、子どもたちが近所の人に見守ってもらえる安心感があります。
10代の子どもの居場所として特徴的な「ティーンズガーデン」は、大人が入ることができず、内装もルールも自分たちで決めて過ごす空間です。勉強する人のための「サイレントルーム」は別にあり、こちらはリラックスできるのはもちろん、新たな取り組みや交流が生まれる場としてデザインしました。

Ⓒ大森今日子

lifelong+learning+center_laboratory Ⓒ大森今日子
幅広い年代の市民でいつもにぎわう場になった
―完成後、どのような反応がありますか。
橋迫:先日、那珂川市長を表敬訪問したところ、連日とてもにぎわっていると大変喜ばれていました。私たちも毎回行くたびにいろいろな景色を見ることができます。改修前は特に平日に来館者が少なかったそうですが、今は平日の朝はご年配の方が自分のお気に入りの場所でコーヒーを飲みながら新聞や雑誌を読んでいたり、子連れのお母さんが子どもを遊ばせながら本を読んでいたり、夕方には小中高生が学校帰りに友達と自習に来たりして、幅広い年代の市民でいつもにぎわっています。休日ともなれば、開館前に行列ができて整理券を配るほど多くの方が来ていて、それぞれの居場所を見つけてくれていることがとてもうれしいです。
建築を通して、多様な人の居場所を作っていきたい
―今後やっていきたいことを聞かせてください。
古森:近代都市が確立した効率性や経済性ではこぼれ落ちてしまった部分を公共建築で担っていけるのではないかと考えています。大都市なら民間の資本で市民の居場所を作ることができますが、それはほんの一握り。例えば、那珂川市のように人口5万人規模では誘致することもなかなか難しく、公共の役割が大きいと感じています。
私たちは建築を通じて、大都市ではないところで多様な人々の居場所を作っていきたいです。市民が気軽に立ち寄れる居場所ができることで、住んでいる人は自分のまちを好きになり、誇りを持てるのではないでしょうか。さらには、まちづくりに積極的に参加しようと思ってくれるかもしれません。特に若い人がそのまちに住み続けたいと思うためには、そんな愛着のある居場所がもっと必要だと思います。私たちがこれからも多くの人の居場所づくりを積極的に提案して、福岡、ひいては全国に多様な居場所が増えることを願っています。

株式会社古森弘一建築設計事務所